
股関節の痛みをもたらす原因となる病気は、初期の段階では「保存療法」を、末期の段階では「手術」を用いるケースが多く見られます。
「人工股関節を入れたほうがいい」などと医師に言われると、どうしても「痛いのではないか?」「手術後の痛みはどうなのか?」などということが気になると思います。
そこで、股関節治療の1つである「人工股関節置換術」の手術後の痛みについて解説します。
人工股関節の手術後の痛みと人工股関節置換術の概要について
まずは、人工股関節の手術(人工股関節置換術)についての基本的なことについて解説します。
股関節を手術する原因となる病気
股関節を人工股関節に置き換える手術をおこなうということは、何らかの原因が存在しているということになります。
股関節の手術が必要になる可能性がある病気としては、例えば以下のような病気が挙げられます。
・変形性股関節症
・大腿骨頭壊死症
・関節リウマチ
・股関節脱臼や股関節骨折の後遺症
「変形性股関節症」とは、股関節の軟骨成分が変性し、すり減ってしまうことで股関節に炎症を起こし、股関節の痛みや変形などの症状を引き起こす病気です。
「大腿骨頭壊死症」とは、大腿骨頭部の血流が滞って骨頭の細胞が壊死を起こし、細胞が死んだ部分の骨が変形を起こすことで痛みや歩行障害などを引き起こす病気です。
「関節リウマチ」とは、免疫異常によって自己抗体(体内の正常な細胞を損傷させる物質)が生み出され、全身のさまざまな関節がその影響を受けることで痛みなどの症状を引き起こす病気です。
「股関節脱臼や股関節骨折の後遺症」とは、事故などの外傷による衝撃で股関節がダメージを受け、脱臼や骨折を起こした後の後遺障害として関節疾患を引き起こすことをいいます。
いずれにしても、「股関節の痛み」や「歩行機能障害」など、日常生活にさまざまな影響を及ぼす可能性が高い症状を引き起こすため、適切な治療を継続する必要があるのです。
従来は「保存療法」と「手術」が主な選択肢だった
股関節に関する上記の病気の治療方針としては、主に「初期段階には保存療法を適用し、保存療法が奏功しなくなったら手術を検討する」という方針がとられていました。
保存療法とは、発生している症状を緩和し、運動療法などによって患部の機能障害の進行を防止する治療法のことです。
保存療法は体への負担が小さい治療法として多くの症例で用いられる治療法ですが、上記の「機能障害の進行を防止する」という効果は完全なものではなく、加齢などの条件も重なって次第に症状は進行してしまいます。
結果、進行期から重度の疾患にまで症状が進行してしまい、次第に保存療法では十分に痛みなどの症状を緩和できなくなってしまうのです。
そうなると、以下のような股関節の手術を選択する可能性があります。
・人工股関節置換術
・骨切り手術
・関節鏡手術
人工股関節置換術の「治療中の痛み」と「治療後の痛み」について
手術なので「痛み」については誰もが気になるところでしょう。
まず安心していただきたいのは、変形性股関節などの治療において用いられる人工股関節置換術は「麻酔」を利用しますので、手術中に痛みを感じることはありません。
人工股関節置換術を実施する際には「全身麻酔」などを用いるため、患者さんは手術中に痛みを感じることはないのです。
人工股関節の手術に関する痛みについて問題になるのは、麻酔が切れた後の「手術後の痛み」です。
手術後の痛みのピークは、手術直後から手術当日の夜の間で、その後は時間の経過に伴って軽減していき、手術後数日でおおまかな痛みは落ちつくでしょう。
この手術後の痛みに関しては薬剤によるコントロールが奏功するケースが多く、いわゆる「痛み止め」によって痛みのコントロールをおこないます。
また、「硬膜外麻酔」という麻酔術を手術前にすることで、手術後の痛みを軽減する治療も可能なケースがあります。
人工股関節置換術後の痛みのリスクを抑える方法
股関節の痛みは、痛み自体や歩行機能への影響などがあるため、可能な限り最小限に抑えたいところです。
股関節の人工股関節置換術の後、いわゆる「リハビリ期」において注意するべきポイントを押さえておきましょう。
医師の指示には絶対に従う
人工股関節の手術をしたら、入院とリハビリが必要になりますが、リハビリをおこなうにあたっては必ず「医師の指示に従う」ことを遵守してください。
股関節の手術に限らず、手術後はデリケートな状態にありますので、医師が禁止していることをしてはいけません。
医師の指示通りにしないと、最悪の場合は手術をやり直さなければならなくなるケースもあるのです。
仮に人工股関節の手術後の痛みが抑えられて「きちんと治った!」と思っていても、実は勘違いという可能性が高いので、リハビリは医師の指示に従って安全におこないましょう。
股関節の脱臼リスクが高い動作は避ける
人工股関節置換術の後、気を付けるべきなのは「脱臼を避ける」ことです。
リハビリ中、大きく仰け反るような動作、正座からひねって立ち上がるといった動作で脱臼しやすく、脱臼リスクの高い動作は意識して避けなければなりません。
スポーツは医師の許可を得ておこなう
人工股関節置換術の後、「スポーツ」をしたい場合は医師の許可を得てからおこなってください。
重いものを持ったりジャンプの多い競技、相手にぶつかるような激しい競技を避ければ、特に制限を設けることなく好きなスポーツに復帰することができるでしょう。
やりたいスポーツに関して担当医に相談し、どういった動作は避けなければならないか、そもそもリハビリ中に復帰可能なスポーツであるかの判断をしてもらいましょう。
股関節への負荷を抑えるための体重コントロール
人工股関節置換術の後、人工股関節を少しでも長持ちさせるためには「体重コントロール」が欠かせません。
股関節には上半身の重さがかかるため、体重が重いと人工股関節への影響が大きくなり、人工股関節の損傷リスクを高めることになります。
適度な運動習慣を身につけ、適度な体重を維持できるように生活習慣を見直し、必要に応じて医師の指示した運動・生活メニューを実施してください。
股関節の症状には「再生医療」も検討しよう
股関節の重い症状に対して人工股関節の手術などをおこなう場合、手術後の痛みのリスクを無視することはできません。
保存療法は効かない、けれども手術は痛みや体への負担が気になるという患者さんは「再生医療」も検討してみてください。
股関節の再生医療は自身の細胞によって股関節の軟骨の損傷を修復し、変形性股関節症などの症状の進行を遅らせて痛みを改善する効果が期待できます。
例えば「幹細胞」を利用した再生医療をする場合は、患者さん自身から幹細胞を採取(切開して脂肪を採取する等)し、これを培養してから患部に注射するという治療をおこないます。
この治療法であれば、人工股関節の手術ほど体への負担はありませんし、手術後の痛みの心配もほとんどないでしょう。
従来の保存療法では奏功しなくなった患者さんでも効果がみられる可能性があり、アレルギー・感染症・拒否反応といった副作用のリスクも少ないので、メリットの多い治療法と言えます。
まとめ
人工股関節の手術(人工股関節置換術)は、手術後の痛みをコントロールすることは可能です。
手術後のリハビリは医師の指示のもとで安全におこない、脱臼や人工股関節の損傷などのリスクを少しでも減らすようにして痛みの改善ができれば、生活の質がグンと良くなるでしょう。
しかし、外科的な手術はどうしても避けたい、人工股関節のような手術を受けると、手術後の痛みがどうしても心配で仕方がないなどという人は、再生医療を選択するのもおススメです。
再生医療は、多くのメリットがある治療法です。
ぜひ、検討してみてはいかがでしょうか。
No.00004
監修:院長 坂本貞範